離婚にあたり、「住宅ローンが残っている家をどう処理すべきか」という悩みは非常に切実です。家を売って清算するにしても、どちらかが住み続けるにしても、後悔しない決断をするためには「現在の家の市場価値」と「ローンの正確な残高」を正しく把握することが不可欠です。本記事では、ローン残高と売却価格のバランスに応じた対処法や、ペアローン・連帯保証人の注意点などを詳しく解説します。トラブルを未然に防ぎ、前向きな新生活をスタートさせるためのガイドとしてお役立てください。
目次
離婚でローン中の家は売れる?
住宅ローンが残っている家でも、離婚を機に売却することは可能です。ただし、買主へ引き渡す際には、原則として住宅ローンを完済し、金融機関が設定している抵当権を抹消する必要があります。
そのため、まず確認したいのが「住宅ローンの残高」と「家の売却価格」です。
売却価格がローン残高を上回るアンダーローンであれば、売却代金からローンを完済し、残った金額を財産分与する方法が考えられます。
一方、売却価格よりローン残高の方が多いオーバーローンの場合は、不足分を自己資金で補うなどの対応が必要です。自己資金で完済できない場合は、金融機関と相談したうえで任意売却を検討するケースもあります。
つまり、ローン中だから家を売れないわけではありません。離婚時に家をどうするか判断するためにも、まずはローン残高と現在の査定額を確認し、アンダーローン・オーバーローンのどちらに該当するかを把握することが重要です。
離婚時にローン中の家を売却する前に確認すべき2つのこと
離婚時の財産分与について話し合う前に、まずは現状を冷静に把握しなければなりません。特に住宅ローン返済中の家は、「借金の残額」と「物件の価値」の2点が明確になって初めて、最適な出口戦略を選ぶことができます。まずは、以下の2つのポイントを優先して確認しましょう。
住宅ローンの残高(完済までの金額)を確認する
最初に行うべき作業は、住宅ローンの正確な借入残高を確認することです。家を売却して名義を変更するには、原則として住宅ローンを一括返済し、金融機関の抵当権を抹消しなければなりません。そのため、「今売ったらいくら返さなければならないのか」を把握することが大前提となります。
残高を確認する最も簡単な方法は、毎年10月から11月頃に金融機関から郵送される「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書(残高証明書)」を確認することです。また、契約時に受け取った「返済予定表」でも、月ごとの残高推移を辿ることができます。最近は、インターネットバンキングのマイページからいつでも詳細な残高を照会できるケースも多いため、書類が見当たらない場合はウェブサイトやコールセンターへ問い合わせてみましょう。
家の現在の価値(売却査定額)を調べる
次に、その家が今売却した場合に「いくらで売れるのか」という客観的な査定額を調べます。ここで大切なのは、購入時の価格ではなく、現在の不動産市場における価値を知ることです。
家の査定は、不動産会社に依頼するのが一般的です。周辺の成約事例や築年数、物件の状態などを踏まえ、プロの視点から売却見込み額が提示されます。1社のみの査定では金額が偏る可能性があるため、複数の会社に依頼して相場を比較できる「一括査定サービス」の活用が効率的です。査定額とローン残高を比較することで、売却後に手元に現金が残るのか、あるいは持ち出しが必要になるのかが明確になり、その後の協議の方向性が決まります。
アンダーローンとオーバーローンで異なる家の売却方法
査定額とローン残高の関係によって、売却の手順や財産分与の考え方は大きく異なります。このバランスがプラスの状態を「アンダーローン」、マイナスの状態を「オーバーローン」と呼びます。まずは違いを整理しましょう。
| 項目 | アンダーローン | オーバーローン |
| 状態 | 査定額がローン残高を上回る | 査定額がローン残高に届かない |
| 売却の可否 | 売却代金で完済でき進めやすい | そのままでは売却が困難 |
| 主な対処 | 完済後の利益を財産分与 | 自己資金で補填、または任意売却 |
アンダーローン(売却額が残高を上回る)の場合と財産分与
アンダーローンとは、家の売却査定額が住宅ローンの残高を上回っている状態を指します。この場合、売却代金でローンを完済できるため、手続きは比較的スムーズに進みます。
売却代金からローン残高を差し引き、仲介手数料などの諸費用を精算して残った利益は、夫婦の「共有財産」として財産分与の対象になります。婚姻期間中に築いた財産は、原則として2分の1ずつ分けるのが一般的です。現金化することで端数まで公平に分割できるため、後々の金銭トラブルが最も少ない方法といえます。
また、売却益(譲渡所得)が発生した場合、通常は税金がかかりますが、自宅の売却であれば「居住用財産の3,000万円特別控除」という特例を利用できるケースがあります。ただし重要な注意点として、この特例は配偶者や親子など特別な関係にある人への売却には適用されません。そのため、第三者へ売却することが前提となります。夫から妻へ家を買い取らせるような場合には適用されない点に注意してください。特例の適用には一定の要件を満たした上での確定申告が必要となるため、事前に税理士や税務署へ確認しておきましょう。
オーバーローン(売却額が残高を下回る)の場合の対処法
オーバーローンとは、家の査定額がローン残高に届かず、家を売っても借金が残ってしまう状態のことです。
前述の通り、家を売却して買主に引き渡すには金融機関の「抵当権」を抹消する必要がありますが、金融機関はローンが完済されない限り、原則として抹消を認めません。そのため、オーバーローンのままでは通常の売却が困難になります。解決策として最もシンプルなのは、不足分を預貯金などの自己資金で補填し、一括完済することです。これにより抵当権を抹消し、通常の物件として売却が可能になります。
もし自己資金での補填が難しい場合は、「任意売却」という選択肢を検討することになります。これは、金融機関の同意を得た上で、ローンが残る状態でも抵当権を解除してもらい売却する方法です。競売よりも高い価格で売れる可能性があり、プライバシーも守られやすいメリットがあります。
ここで誤解されやすいのが、信用情報への影響です。任意売却そのものが直接「ブラックリスト」の原因になるわけではありません。任意売却を金融機関に認めてもらうためには、原則として数ヶ月ローンを滞納して「期限の利益」を喪失する必要があり、その滞納の事実が信用情報機関に登録される(いわゆるブラックリスト状態になる)という仕組みです。また、売却後に残った債務の返済義務は続きます。デメリットも大きいため、専門家の助言を得ながら慎重に判断する必要があります。
ペアローンや連帯保証人のまま離婚するリスクと解消法
共働き世帯に多い「ペアローン」や、一方が「連帯保証人」や「連帯債務者」になっているケースでは、離婚後も契約が残り続ける点に注意が必要です。これらを放置して離婚することは、将来的に大きなリスクを招きます。
そのまま放置するリスクとは
夫婦としての関係を解消しても、銀行との間で結んだ保証契約や債務は自動的に消えることはありません。
例えば、元配偶者がローンを返済し続けている最中に、何らかの理由で支払いが滞った場合、金融機関は連帯保証人であるあなたに一括返済を求めてきます。連帯保証人には「まずは本人に請求してほしい」と拒否する権利(催告の抗弁権)がないため、自分はもう住んでいない家のために、突然多額の支払いを命じられるという過酷な状況になりかねません。オーバーローンのため売却を先延ばしにし、契約をそのままにしたことで、数年後にトラブルが表面化する事例は少なくありません。
【事例】共働き夫婦のペアローンを放置するとどうなる?
たとえば、夫婦それぞれが2,000万円ずつ借り入れたペアローン(合計4,000万円)の住宅で、離婚後に夫が自分の持ち分の返済を続ける約束をしたとします。ところが数年後に夫が転職で収入が下がり返済を滞納すると、妻は夫のローンの連帯保証人になっているため、自分はもう住んでいない家のために返済を求められることになります。ペアローンや連帯保証は「離婚すれば自動で解消される」ものではないため、離婚の時点で契約関係をどう清算するかを必ず決めておくことが重要です。
連帯保証人やペアローンを解消するための具体的な手順
将来の不安を断つためには、離婚時に契約関係を完全に解消しておくことが望ましいといえます。主な方法は次のとおりです。
- 家の売却と完済:最も確実な方法は、家を売却してローンを「完済」することです。債務が消滅すれば、保証人や連帯債務の関係もすべて解消されます。
- ローンの借り換え:家を売却せず、どちらか一方が住み続ける場合は、住む本人が単独の名義で新たにローンを組み直す「借り換え」が有効です。これにより、元配偶者を契約から外せるケースがあります。ただし、単独で審査に通るだけの十分な年収が必要です。
- 連帯保証人の変更:別の親族を代わりの保証人に立てるなどの条件で、金融機関と交渉する方法もあります。しかし、銀行側の審査は厳しく、認められないケースも多いため、まずは早めに融資元の金融機関へ相談することが大切です。
家を売却せずにどちらか一方が住み続ける場合の注意点
子供の教育環境を変えたくないといった理由で、どちらか一方が住み続ける道を選ぶこともあります。しかし、ローンが残ったまま住み続ける場合には、特有の問題が潜んでいます。
名義人と居住者が異なる場合に起きやすいトラブル
特に、「夫名義のローンで、夫が家を出て妻と子供が住む」といった、名義人と居住者が異なるパターンはリスクが高くなります。
まず、住宅ローンの返済滞納による強制退去のリスクです。家を出た名義人が生活苦などで支払いを止めてしまえば、家は差し押さえられ、最終的に競売にかけられる可能性があります。住んでいる家族は立ち退きを迫られることになりかねません。また、住宅ローンの契約条項には「名義人本人が居住すること」という条件が含まれていることが一般的です。名義人が住んでいないことが発覚すると、銀行から契約違反として残金の一括返済を求められる可能性があることも忘れてはなりません。
公正証書を作成して将来のトラブルを防ぐ
やむを得ずどちらか一方が住み続ける選択をする場合は、夫婦間の約束を口約束で済ませず、「公正証書」を作成しておくと安心です。「執行認諾文言」付きの公正証書を作成しておけば、もし相手がローンの支払いや養育費の送金を怠った際、裁判を経ずに相手の給与や預貯金を差し押さえられる場合があります。
ただし、ここで誤解してはならないのは、公正証書の効力が及ぶのは「元配偶者」に対してのみだという点です。公正証書はあくまで夫婦間の約束を公的に証明するものであり、金融機関とのローン契約そのものを変更する力はありません。つまり、銀行が連帯保証人である妻(または夫)に返済を請求してくること自体を止める効力はないのです。根本的な解決には、やはり売却か単独名義への借り換えが望ましいといえます。
離婚に伴う家売却の具体的な流れと相談先
離婚を機に家を清算し、新しい生活へスムーズに移行するための売却ステップと、頼れる相談先を整理します。
不動産会社への相談から引き渡しまでのステップ
売却の手続きは、一般的に以下の5つのステップで進みます。
- 1. 査定依頼:複数の不動産会社に査定を依頼し、売却見込み額を確認します。
- 2. 媒介契約の締結:売却活動を依頼する不動産会社を選び、契約を結びます。
- 3. 販売活動:広告などを通じて買主を探します。居住中の場合は内覧の対応が必要です。
- 4. 売買契約の締結:条件が合致した買主と売買契約を結び、手付金を受け取ります。
- 5. 決済・引き渡し:買主から残代金を受け取り、その場で住宅ローンを完済します。同時に司法書士が抵当権抹消の手続きを行い、物件を引き渡します。
弁護士や税理士などの専門家を頼るべきケース
当事者同士で解決が難しい場合は、専門家の力を借りるのが賢明です。分与の割合や売却の是非で意見が対立しているなら、弁護士に相談しましょう。代理人として交渉を任せることで、感情的な対立を避け、法的に正当な利益を守れる場合があります。また、売却益が大きく出る場合や、複雑な特例利用を検討している場合は、税理士に相談することで、節税対策や申告漏れによるトラブルを防げる可能性があります。
離婚と家の売却に関するよくある質問
Q. 離婚前の売却と離婚後の売却、どちらがよいですか?
A. ケースによって異なります。財産分与は離婚成立後に行うのが原則ですが、共有名義の解消やトラブル防止の観点から、売却の方向性や役割分担は離婚届を出す前に決めておくのが安全です。税金や手続きの有利・不利は個別事情で変わるため、弁護士や税理士に相談して判断するとよいでしょう。
Q. 配偶者がローンの残高や状況を教えてくれない場合はどうすればいいですか?
A. 名義人本人でないと金融機関は残高を開示しないのが原則です。話し合いで情報共有が得られない場合は、弁護士を通じて開示を求めたり、調停の手続きの中で財産を明らかにしてもらったりする方法があります。まずは専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
離婚時にローンが残っている家をどうするか決めるには、まず「住宅ローンの残高」と「今の査定額」を正確に突き合わせることがすべての出発点です。アンダーローンであれば売却して分けるのが最もシンプルですが、オーバーローンの場合は持ち出しや任意売却といった慎重な対応が求められます。
住み続ける選択をする際も、将来的な滞納リスクや連帯保証の解除について、離婚届を出す前にしっかりと決着をつけておく必要があります。不確かな情報で判断せず、不動産会社や弁護士、税理士などの専門家を交えながら、二人にとって最も納得感のある解決策を見つけ出し、すっきりとした気持ちで再出発を切りましょう。

















































































































































