親から相続した実家など、古い家が建っている土地を売却しようと考えたとき、建物を壊して更地にするべきか、そのまま売るべきか悩む方は少なくありません。本記事では、古家付き土地を売却する際の2つの方法について、それぞれのメリットやデメリットをわかりやすく解説します。
また、解体費用の目安や税金の注意点、損益分岐の具体的なシミュレーション、売却をスムーズに進めるための手順も紹介するため、ご自身の状況に合った最適な売却方法を判断する材料が得られます。なお、令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡から、相続空き家の3000万円特別控除の要件が大きく拡充されている点もあわせて押さえておきましょう。
目次
古家付き土地とは?売却時の基本知識
古家付き土地とは、一般的に築数十年が経過し、建物自体の経済的価値がほとんどなくなった古い家が残っている土地のことです。こうした不動産を売却する際は、不動産会社と媒介契約を結んで買主を探すのが一般的ですが、その前に「建物を残すか、取り壊すか」という売り出し方法を決めておく必要があります。
そのまま売却(現状渡し)と更地渡しの違い
古家付き土地の売却方法には、大きく分けて「そのまま売却」と「更地渡し」の2種類があります。なお、本記事では一般的に使われる「そのまま売却」と、不動産業界での正式な用語である「現状渡し」を同じ意味として扱います。
「そのまま売却(現状渡し)」とは、建物を解体せずにそのままの状態で買主に引き渡す方法です。売却にあたって事前の解体工事が必要ないため、売主の手間や初期費用を抑えられるのが特徴です。
一方、「更地渡し」とは、売主の負担で古い建物を解体し、何もない更地の状態にしてから買主に引き渡す方法です。買主にとっては購入後に解体する手間やコストがかからないため、すぐに新築工事に取り掛かれるという利点があります。どちらを選ぶかは、物件の立地や建物の状態、ターゲットとする買主層によって異なります。
接道義務など法律上の制限に注意
古家付き土地の売却方針を決める際、特に注意しなければならないのが「接道義務」をはじめとする法律上の制限です。
建築基準法では、原則として「幅員4m以上の道路に敷地が2m以上接していなければならない」という接道義務が定められています。しかし、古い基準で建てられた家のなかには、現在の基準を満たしていない物件も珍しくありません。
このような接道義務を満たしていない土地は「再建築不可物件」と呼ばれ、一度建物を解体して更地にしてしまうと、新しい家を建てることができなくなります。その結果、土地の利用価値が著しく下がり、売却が非常に困難になる恐れがあります。建物を壊す前には、必ず役所や専門家に調査を依頼し、再建築が可能かどうかを確認することが極めて重要です。
古家付き土地を「そのまま売却」するメリット・デメリット
古い建物を残したまま「そのまま売却(現状渡し)」する方法は、手軽に進められる一方で、売却価格や契約後の責任に関する注意点があります。
そのまま売却するメリット
そのまま売却する最大のメリットは、売主に解体費用の負担が発生しない点です。建物の解体には構造や規模により100万円単位の費用がかかることも多いですが、そのまま売却すればこの手出し資金を回避できます。
また、固定資産税を低く抑えられる点も大きな利点です。住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、課税標準が軽減されています。具体的には、200平方メートル以下の小規模住宅用地部分は6分の1、それを超える一般住宅用地部分は3分の1に軽減される仕組みです。そのまま売却であれば、売却活動が長引いても、この低い税負担を維持したまま買い手を待つことができます。
さらに、近年は古民家を安く購入してDIYやフルリノベーションを楽しみたいというニーズも増えており、建物の状態次第ではそのまま残していることが付加価値になるケースもあります。こうした層に届けるためには、一般の不動産ポータルだけでなく、古民家・空き家専門のマッチングサイトや、自治体が運営する空き家バンクへの登録もあわせて検討するとよいでしょう。
そのまま売却するデメリットとその対策
デメリットとしては、買主が建物の取り壊しを前提としている場合、解体費用を見込んだ大幅な値引き交渉をされやすい点が挙げられます。実質的には、更地相場から解体費を引いた金額での取引になることが一般的です。
また、「契約不適合責任」のリスクも無視できません。これは、引き渡し後に雨漏りやシロアリ被害など、契約時に知らされていなかった不具合が見つかった場合、売主が修繕費用などを負担しなければならない責任です。古い建物ほど隠れたリスクが高いため、対策として次の2点を契約段階で講じておくことが有効とされています。
- 契約書に「契約不適合責任の免責」を明記し、現状有姿での引き渡しであることを買主と合意しておく
- 事前に専門家によるインスペクション(建物状況調査)を依頼し、判明した不具合をすべて開示したうえで契約する
誠実な情報開示と契約条件の事前調整が、後々のトラブルや損害賠償請求を防ぐことにつながります。
古家付き土地を「更地にして売却」するメリット・デメリット
建物を解体して更地にする方法は、事前のコストはかかりますが、土地としての魅力を最大化できる手法です。
更地にして売却するメリット
更地にする一番のメリットは、買い手がつきやすく、早期売却が期待できる点です。買主は購入後にすぐ新築工事を開始できるため、ハウスメーカーで家を建てる予定のファミリー層など、幅広い層をターゲットにできます。
また、建物が存在しないため、建物の欠陥に関する契約不適合責任を負う必要がなくなります。土地の境界や地中の埋設物といった点にのみ注意すればよいため、売却後のトラブルを大幅に減らすことができるのは大きな安心材料です。
さらに、土地の広さや形状、日当たりなどが視覚的にわかりやすくなるため、内見時の印象も良くなり、希望価格での成約に結びつきやすくなります。
更地にして売却するデメリット
デメリットは、売主がまとまった解体費用を売却前に用意しなければならない点です。一般的な木造住宅でも100万円から200万円程度、鉄骨造やRC造ならさらに高額な費用が必要になる場合があります。
また、建物を壊すと前述の「住宅用地の特例」が外れてしまう点にも注意が必要です。1月1日時点で更地になっていると、翌年度の固定資産税が大きく上がるリスクがあるため、解体のタイミングには慎重な判断が求められます。
なお、「相続空き家の3,000万円特別控除」の利用を考えている場合、必ずしも売却前に売主が解体しておく必要はありません。令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡では、現状渡し(古家付き)で売却し、引き渡し後に買主が解体または耐震改修を行う方法も選択できる場合があります。ただし、その場合は譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに解体または耐震改修を完了させるなど、厳格な期限要件があるため、慎重なスケジュール管理が必要です。
そのまま?更地?古家付き土地売却の判断基準と費用の目安
解体すべきかどうかの見極めポイント
更地にするかどうかの判断基準の一つは、建物の老朽化度合いです。雨漏りや基礎のヒビなど、修繕に多額の費用がかかる場合は更地にするのが賢明です。しかし、昭和56年6月以降の新耐震基準を満たしている建物であれば、中古住宅としての価値が認められる可能性もあります。
また、周辺環境も重要です。周囲に新築戸建てが多いエリアなら更地需要が高く、古い街並みが残るエリアなら古民家再生の需要があるかもしれません。地域の市場動向を熟知した不動産会社のアドバイスを受けるのが最も確実な判断方法です。
解体費用の相場と負担について
解体費用の目安は、建物の構造によって1坪あたりの単価が異なります。
- 木造:約3万円〜5万円/坪
- 鉄骨造:約4万円〜7万円/坪
- 鉄筋コンクリート(RC)造:約6万円〜10万円/坪
たとえば30坪の木造住宅なら90万円〜150万円程度が目安となります。ただし、アスベストの使用有無や、大型重機が入れる道路幅かどうか、付帯工事(庭木・ブロック塀の撤去など)の量によって費用は加算されます。見積もりは必ず複数の業者から取るようにしましょう。
損益シミュレーション:解体費と売却益の損益分岐の考え方
「そのまま売却」と「更地渡し」のどちらが手残りで有利かは、解体費と売却価格の差で決まります。ここでは架空のモデルケースで損益分岐の考え方を整理します。
【モデルケース】郊外にある築40年の木造一戸建て(30坪)
- そのまま売却の想定価格:1500万円(解体費を見込んだ値引き後)
- 更地渡しの想定価格:1800万円
- 解体費用:120万円(木造30坪を1坪4万円で試算)
この場合、更地渡しの手残りは「1800万円 − 120万円 = 1680万円」となり、そのまま売却の1500万円より180万円多くなる計算です。つまり「解体費よりも更地化による値上がりが大きいなら更地が得」というのが基本的な損益分岐の考え方です。
逆に、更地にしても売却価格が1600万円程度しか伸びないと見込まれるエリアであれば、「1600万円 − 120万円 = 1480万円」となり、そのまま売却(1500万円)のほうが手残りが多くなります。実際の判断には、譲渡所得や特例の適用可否、売却までの期間中の固定資産税負担なども含めて総合的に試算することが大切です。
古家付き土地の売却手順とスムーズに進めるコツ
査定から媒介契約・引き渡しまでの流れ
まずは不動産会社に査定を依頼します。この際、「そのまま売却(現状渡し)」と「更地渡し」の両方の査定額を出してもらうと判断しやすくなります。媒介契約を締結し販売活動を開始、買主が見つかれば売買契約を結びます。
更地渡しの場合は、契約後から引き渡しまでの間に解体工事を行うのが一般的です。最終的に代金の決済と所有権移転を行い、手続き完了となります。
売主自身で行う「確定測量」と「滅失登記」を忘れずに
売却をスムーズに進めるために欠かせないのが、売主が土地家屋調査士に依頼して行う「確定測量」です。境界が曖昧なままだと買主が融資を受けられないケースもあり、トラブルの元となります。また、建物を解体した後は、所有者自身が1ヶ月以内に法務局へ「滅失登記」を申請することが法律で義務付けられています。これらは市区町村が自動で行うものではなく、怠るとペナルティの対象となったり、土地の売却登記ができなかったりするため注意が必要です。
古家付き土地の売却に関わる税金とリスク対策
譲渡所得にかかる税金と相続空き家の3,000万円特別控除(令和6年以降の拡充に注意)
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して所得税や住民税などがかかります。相続した空き家を売却する際には、一定の要件を満たすことで譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」が用意されています。
従来は、売却前に売主側で建物を解体して更地にする、または耐震改修を行うことが主な要件とされていました。しかし、令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡からは制度が拡充され、現状渡しで売却した場合でも、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに買主が解体または耐震改修を行えば、特例の対象になり得るとされています。
この改正により、売主が必ずしも先に解体費用を負担する必要がなくなったため、「そのまま売るか、更地にするか」の判断基準は実務的に大きく変わっています。ただし、家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたものであることなど、控除を受けるための要件は厳格に定められています。さらに、令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上いる場合は、控除額が最高3,000万円ではなく最高2,000万円になる点にも注意が必要です。適用の可否は個別事情によって異なるため、事前に税理士へ確認したうえで、国税庁の公式情報なども必ず確認しましょう。
契約不適合責任への補足
そのまま売却を選ぶ場合の契約不適合責任への対策は、本記事の「そのまま売却するデメリットとその対策」の項目にまとめています。免責特約とインスペクションを併用する形が、売主側のリスクを抑えつつ買主側にも誠実な情報開示ができる現実的な落としどころです。
まとめ:古家付き土地の売却は状況に合わせた最適な選択を
古家付き土地の売却は、建物の状態、土地の法律制限、そして売主自身の資金状況を総合的に判断して方法を決める必要があります。本記事で紹介した損益シミュレーションの考え方を参考に、「解体費用をかけて高く売る」か「手間と費用を省いてそのまま売る」か、どちらが最終的な手残りで有利かをシミュレーションすることが重要です。
また、令和6年以降は相続空き家の3000万円特別控除の要件が拡充されたことで、必ずしも売主側で先に解体する必要がなくなったケースも増えています。最新の制度を踏まえつつ、信頼できる不動産会社や税理士に相談し、納得のいく売却計画を立てていきましょう。































































